経済成長しなければならない本当の理由

「もう欲しいものもないし、これ以上経済成長なんか必要ないよ」

こんな声が聞こえてきそうです。昨今、日本の貧困が問題になりつつありますが、それでもまだ私たち日本人は、経済的には豊かであるというのが多くの人の実感ではないでしょうか。

テレビや新聞では盛んに経済成長が取り上げられます。アフリカのような後進国ならいざしらず、様々なものが溢れる今の日本に経済成長が必要なのでしょうか?また可能なのでしょうか?

経済活動にはどうしても環境破壊の側面があり、資源を使って生産活動を行い、やがて廃棄されるゴミによっても環境は破壊されます。現在、世界には70億人以上の人が暮らしていますが、これらの人々が全員日本人と同じ暮らしをしたら、地球環境はもたないだろうと言われています。

そこまでして経済成長をしなくてはいけないのものなのか。答えは「経済成長をしなくてはならない」というものです。

どういうことかご説明したいと思います。

まず、経済成長とはどういうことか?を明確にしておく必要があります。ここがあやふやだと、問題の根本がグラついているということになりますので、きちんと考えをまとめることができなくなります。

経済成長をするというのはGDPが成長するということです。

GDPというのは国内総生産のことで、一年間に国内でどれだけ材やサービスが生産されたか?を指す指標です。

たこ焼き屋さんがあるとします。1パック8個入り400円の、マヨたっぷりのたこ焼きの原材料費は150円だとします。1個売れれば250円が粗利益です。250円は材料をこねて焼いた労働に対する対価になり、この部分がGDPにカウントされる部分になります。

あらゆるビジネスには仕入れと売り上げがあり、その差額の粗利益の部分を付加価値といいます。この付加価値を日本全体で一年間でどれだけ生産したかがGDPです。たくさんの人が働いて付加価値を大量に生産すれば、それだけ豊かな生活な暮らしができます。

服にしてもパソコンにしても、原材料を仕入れて生産して販売するわけですから、それぞれに付加価値があるわけです。多くの付加価値に恵まれるほど、豊かな暮らしと言えるでしょう。

たこ焼き屋さんの例では250円の付加価値が生まれました。一年間で日本全体では約500兆円の付加価値が毎年生産されています。

経済成長というのはこの500兆円が次の年には550兆円になり、600兆円になるということです。これで経済成長とはなにか?ということがはっきりしました。

改めて経済成長はもういらないと思われた方もいらっしゃると思います。たしかに、たこ焼きも2パックも3パックもはいらないし、むしろダイエットしたいという人もいるでしょう。スマホも一通り行き渡れば、あとは買い替え需要が発生するくらいで、一人2、3台もつようなものでもありません。このような状況でも経済成長が必要なのでしょうか?

答えは「それでも経済成長は必要」というものです。しかも、その必要性は高まっています。

欲しいものはなく、環境は破壊されてゴミの山に埋もれそうになっているのに、なぜ経済成長が必要なのか?その理由をご説明したいと思います。

たこ焼き屋さんの例では400円のたこ焼きが売れて、仕入れが150円なので付加価値は250円でした。たくさん売れればそれだけ経済成長できるわけですが、たくさん売れなくても経済成長する方法があります。

それは、値上げして1パック500円で売る場合です。材料費も値上げして200円になり、粗利益は300円になりました。

これなら無理してたこ焼きを頬張ることなく経済成長できます。

GDP=粗利益単価 × 数量

なので、粗利益単価をあげればGDPも成長するわけです。今まで数量の方に気をとられていたので、単価を上げるという発想が失われていました。

これはデフレ脱却と同義といえます。デフレ脱却=経済成長ということです。

今、日本やアメリカ、ヨーロッパなどの先進国に必要なのはこの値上げ型の経済成長です。ここまでくれば、「もう、欲しいものなんてないから、経済成長もいらない」という主張は、少しポイントがずれていたということがお分かり頂けると思います。

もちろん、新しい産業や新しい製品が作られたり、数が余計に売れて経済成長することもありますが、既存の産業や製品の価格が上がっていくことがここでのポイントです。

単価をあげればGDPは成長するのはわかったけど、そんなことして何になるのか?または、値上げなんて嫌だと思われることでしょう。

世の中全体で経済を考える場合には、徐々に値上がりしていく必要が有ります。なぜ、物価上昇が必要なのかは少し込み入った事情があるので、もう少しお付き合いいただければと思います。

一度問題を整理しておきたいと思います。

・経済成長するということは、GDPが成長することだ。

・GDPは粗利益単価 × 数量で求められる。

・粗利益の単価が上昇することで経済成長することができる。

・経済全体を考えると、物価上昇が必要だ。(これから解説するところ)

 

1970年の物価をみてみたいと思います。

大卒初任給(公務員)31510円 高卒初任給(公務員)23.140円
牛乳:25円 かけそば:100円 ラーメン:110円 喫茶店(コーヒー):120円
銭湯:38円 週刊誌:70円 新聞購読料:750円 映画館:700円

出展:団塊世代の思い出 

1970年代から現在にかけて大幅な物価の上昇が確認できます。概ね同じような比率が保たれている感ではあります。ゼロが一個少ないといった印象でしょうか。

大卒の初任給が31510円というのは、今の感覚ではかなり少ない気もしますが、こういった物価の水準というのは世の中に出回っているお金の量によって変化します。

お金の量は政府(日銀)が調整しています。西南戦争のときに明治政府は戦費を調達するためにお金を大量に印刷して使った結果、インフレになりました。このことからも、政府支出が物価の上昇を招くことがわかります。下の図は紙幣流通高といって紙幣の流通額のグラフです。

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Y軸の単位は億円になります。1970年で約4兆円ほどでしょうか。2016年現在では90兆円を超えています。1万、5千、2千、千円紙幣の合計であり、このグラフからも通貨量と物価に一定の関係があることが見て取れます。

通貨が増えるのは、毎年政府が予算を組むときに、税金以外に新たに通貨を発行するからです。

財政支出をする際に日銀が新たに発行したお金を使用するということと、市中銀行が企業などにお金を貸し出して、信用創造を行う際におこります。通貨発行というのは政府だけがもつ特別な権利であり、個人が札を作ると偽札ということで罪に問われます。ずるいといえばそうですが、政府だから許されることでもあります。

つまり、毎年税収で足りない部分を、通貨を発行して遣うことで徐々に物価を押し上げているわけです。年金生活の高齢者や、病院に通う病気の人などにとっては、予算できちんとケアしてもらえることは大変ありがたいことです。物価が上がるということは、こういった経済的な弱者に対して十分な分配が行き渡っていることを示しています。

狂乱物価のような極端な物価上昇は経済活動に支障があるため、抑える必要がありますが、適度な物価上昇は政府による適度な分配が行われていることになりますので、歓迎すべきことです。

物価上昇率というのは体温のようなもので、高すぎても低すぎても問題があります。39度も熱があれば病院にいきますが、33度しかない場合も体の中で異常が起こっていると思われるのでこれも問題です。

まとめると

・経済成長するということは、GDPが成長することだ。

・GDPは粗利益単価 × 数量で求められる。

・粗利益の単価が上昇することで経済成長することができる。

・適度な物価上昇は政府による再分配が適度に行われている証明になる。

 

なぜ経済成長しなければならないかというと、経済成長に伴う物価の上昇は、政府による適度な分配が行われていることの証明だから、ということなります。

 

経済というのは突き詰めると「国民が生活に困ることがないように運営する」というのが究極の目的になります。生産性や輸出の拡大などは手段であって、本当の目的ではありません。