インフレというのはよく聞くことばですが、その正確な意味をご存知でしょうか?モノの値段が上がること、というのはなんとなくイメージでわかると思います。
ここではインフレが起こるメカニズムと、インフレを判断する指標、インフレの種類を見ていきたいと思います。
インフレのメカニズム
価格が上がるのには、実は2種類あるというのはあまり知られてません。2パターンをひとつずつ説明したいと思います。
パターン1
野菜の不作で値段が上がることがありますが、これがひとつ目のパターンです。野菜が不足すれば、どうしても値段は上がるものです。
嵐のコンサートチケットが、ものすごく高い値段で売買されているというのを聞いたことがありますが、これもこちらのパターンに当てはまります。野菜にしてもチケットにしても数が少ないので、需要と供給のバランスの結果、値段が上がったものです。
逆に野菜が豊作になれば、値段は下がります。工業製品が技術革新が起こって大量に生産できるようになれば、これも値段が下がると考えられます。
このように、さまざまな財やサービスが個々の供給事情によって値段が変動するので個別物価と呼ばれています。ただし、それぞれの事情で値段が上がるのはインフレではありません。一般的にインフレと呼ばれるのは、次の二つ目のパターンになります。
パターン2
減税をすれば、皆さんの手元には、沢山のお金が残ることになります。逆に増税をすると、残るお金は少なくなるでしょう。野菜がとれる量によってその価値が決まったように、手元に残るお金の量によってお金の価値は変動します。
実感として解りにくいところですが、たくさん手元にお金があればお金の価値は下がり、あまりなければ価値があがるのです。みんながたくさん持っているものの価値というのは、下がっていきます。
昭和30年代の大卒の国家公務員の初任給は1万円代でした。その代わり、1万円の給料で生活できる物価水準でした。人々の財布の中にいくら入っているかに応じて、世の中の値付けがされるわけです。
もし、消費税が増税されれば国民全員からお金を吸収しますので、その分お金の価値が上がることになり、逆に減税かもしくは廃止されれば、今までよりお金が手元に残りますのでインフレになるというわけです。
パターン1を個別物価というのに対し、パターン2は一般物価と呼ばれています。
年金や補助金など政府支出が増えることでもお金の価値は変化します。減らされることの多い年金の受給額が、もし増えることになればこれも手元のお金が増えることになるのでこれまたインフレになります。
インフレは、みんながどのくらいお金を持っているかで決まります。
モノとお金の価値のバランス
普段、私たちが目にしている価格変動は、パターン1とパターン2の合成値になります。
モノを買うというのはお金とモノの交換ですので、それぞれの価値がどのくらいあるかによって値段が決まります。お金とモノ、それぞれの価値の比較で値段が決まるのです。
野菜が豊作でも、インフレ(みんながお金を持っている)だと、見た目の値段は変わらないかもしれません。野菜の価値は下がっているのですが、同時にお金の価値も下がっていて、見た目上値段が変わらないためです。実際には野菜の値動きのほうが大きいので、こういったことが起こることは稀だと思われます。
もし、今後、モノの値段が上がることがあったなら、パターン1かパターン2のどちらによるものか、分けて考えると面白いでしょう。
インフレの種類
一口にインフレといっても、いくつか種類がありますのでご紹介したいと思います。
ディマンドプルインフレ
好景気の時に見られるインフレです。 ディマンドとは需要の意味で、賃金の上昇と共に家計の支出が増えて、物価が上昇するものです。
パターン2のインフレになります。
コストプッシュインフレ
原材料や賃金上昇といった、コスト増によって起こるインフレです。コスト分を価格に転嫁するために起こるインフレで、海外から輸入する原材料の値上がりなどが原因となります。
パターン1とパターン2の中間のインフレです。
スタグフレーション
景気後退時に起きるインフレです。景気の後退時には消費や投資が減って、モノの価格は下がっていきますが、輸入された原材料の高騰など、供給に問題がある場合に起こります。賃金の上昇を伴わないため、いわゆる悪性のインフレと言われるものです。
パターン1のインフレです。
ハイパーインフレ
月に50%もの物価上昇が起きるような、極めてスピードの早いインフレです。 戦争で工場が破壊されていたり、投資不足で供給体制が弱っており、かつ極端に安い税金や、極端に多い補助金などが全て組み合わされた時に起こります。
パターン1、パターン2の中間のインフレです。
増税によるインフレ
例えば、消費税増税によって支払う金額が増えると、そのまま物価が上昇したと見なされます。
パターン1、パターン2のどちらにも当てはまりません。
インフレの指標
今がインフレかどうかは指標で判断します。よく参考にされるのは、消費者物価指数とGDPデフレーターです。
消費者物価指数
消費者物価指数(CPI)は総務省が毎月発表する物価統計です。家計が購入する 585 品目に着目して、値段の変化を観測しています。家計がよく購入するものに限定した調査ですので、生活実感に近い物価指数と言えます。
消費者物価指数はある年を100としたときに、現在はどのくらいの水準かという形で表されて、2020年現在は2015年を基準に指標が出されています。
生鮮食品は価格の変動が大きいため、CPIから除外する場合があります。これをコアCPIといいます。また、原油価格も変動が大きいため生鮮食品と原油価格を除いたものをコアコアCPIといいます。
GDPデフレーター
GDPデフレーターは内閣府が3か月に一回発表する、GDP速報に付随した物価統計です。名目GDPから物価の影響を除いた、実質GDPを計算するときに使用されるため、GDP速報と一緒に発表されています。
毎月発表される消費者物価指数よりも速報性が落ちますが、国内で生産されたものに限定されており、消費者物価指数とちがって全般的に観測しますので、より国内経済の実態に沿った物価指標と言われています。
使い分け
個人的にはGDPデフレーターを重視しています。消費者物価指数は品目が限られますし、輸入物価の影響を受けるため、国内全般の物価状況を見るにはGDPデフレーターのほうが適しているためです。消費者物価指数も速報性がありますし、生活実感に近いのでコアコアCPIは参考にしています。
まとめ
インフレというのはモノの価格が上がることですが、その原因は2つあります。一つはモノ自体の価値が上がる場合、もう一つはお金の価値が下がる場合です。
値上げがあった場合に、どちらの原因によって起こったのかを考えると、よりクリアに考えがまとまると思いますので、ぜひ試してみてください。